元祖【ひとり公論】

誰かには必ず、ほんの少しだけでも役に立つに違いない、という意味での公論

引用 河合隼雄先生

blog.goo.ne.jp

村上さんが小説のメリットについて、「その対応性の遅さと、情報量の少なさと、手工業的しんどさ」をあげておられるところ、大変嬉しく思いました。(略)わたしが自分の仕事を、相談に来られた人が「自分の物語を見出していく」のを援助することだと思っているのが、それほど間違っていない、と傍証してもらっているように感じるのです。

現代の一般的風潮は、村上さんが書かれたことのまったく逆の、「できるだけ、早い対応、多い情報の獲得、大量生産」を目指して動いています。そして、この傾向が人間のたましいに傷をつけ、その癒しを求めている人たちに対して、われわれは一般的風潮のまったく逆のことをするのに意義を見出すことになるのです。

(略)それにしても、一人ひとりのたましいを深く傷つける前述のような傾向が、個人主義を唱える欧米から生じてきたというアイロニーについて、ゆっくり考えてみなくてはならないと思います。個人をもっとも大切と考える生き方が、個人をもっとも深く傷つける傾向を生み出しているのです。