元祖【ひとり公論】

誰かには必ず、ほんの少しだけでも役に立つに違いない、という意味での公論

IT系の求人が「上から」な件


IT系の求人が「上から」な件 - シニアICT土方の【IT公論】

現在IT系エンジニアの求人というのは売り手市場なのか、買い手市場なのかわかりませんが、ここ数年、求人のサイト等をながめていて気になるのは、「備考」のところにロコツに「コミュニケーションスキル」について言及されているケースが多くなっていることです。


対人コミュニケーションに問題のないこと

受け身でなく主体的に行動できること

勤怠に問題のないこと


等々。こういうことって、採用面談のときは必ず聞かれるものですが、ロコツに書面に書かれるようになってきたのはここ数年だと思います。



という事実から判断すれば、内情をよく知らない方々からすれば、最近のエンジニアのコミュニケーションスキルは低下しているのか! というふうに考えてしまいますよね。

でもそれは間違っています。エンジニアのコミュニケーションスキルなどというものは、ムカシも今も変わっていないし、おそらくこれからも大して変わらない。

僕は、学生時代に対人コミュニケーションに問題が「ない」人材であれば、そもそもこの業界には入ってこないに違いない、という持論です。この業界においてコミュニケーションに問題を抱えていない人材など果たしているのか? と。。

そういう業界特性なのです。皆が皆、コミュニケーションに問題を抱えながらも、社会に出てから成長してきたのです。はっきりいってしまえば「仕方なく」コミュニケーションスキルを磨かざるをえなかったのです。



さて、そういう求人(特定要素の技術+コミュニケーションスキルも備えた「すばらしい」人材をくれよ、と)が増えてきているということはどういうことなのか? と考えを進めてみれば。。

簡単にいえば、そういう人材がその現場に「いない」から、求められているということですね。ということはもしも本当に、そういう「すばらしい」人材がたまたまその求人をみて応募し、採用されたとすると。。

すぐに孤立して、ツブれるでしょうね。あるいは、周りがまったくついてこないことに腹を立て、やがてバカらしくなって、辞めてしまうと思います。



そういう求人をみた場合に、まったく逆なイメージをする人が、いるのです。つまり、そういう求人をしているということはその現場は「特定要素の技術+コミュニケーションスキルも備えた『すばらしい』人材」ばかりで「オレなんかついていけないんじゃないか」と。。

。。まんまとダマされています。

そういう求人の面接に出てくる現場の担当者ときたら。。なんだか人と目も合わせられないような、「あなた、対人恐怖症?」みたいなタイプの人が出てきて、なんだかぼそぼそとか細い声で神経質にしゃべります。そのくせ、たまにこちらをちらちら見て、ちゃんと「品定め」はしているようですが。。

「え? こんな人とこれから一緒に仕事すんの?」と、萎えてしまうのです。(というのは僕の感想ですので、そういうタイプの人に対して親近感を持てる場合は、その現場に入ってもうまくやってゆけるということです)



技術系の求人というのは、たとえばとあるプロジェクトがこれから佳境に入るというときにキーマンがツブれて抜けてしまって、にっちもさっちもいかない、今すぐにでも即戦力がほしい! という場合が多いわけです。ですから求人の「トーン」も、自分たちのスキルレベルを棚にあげて、ダメもとでその現場にいないタイプの人間(スーパーマン)を求めて一気に進捗の遅れを取り戻したい! という必死さが伝わってくることがあります。スーパーマンを求めているのですから、対人コミュニケーションに難がある人材など論外です。不要です。

その気持ちもわからないでもないのですが。。

そもそもキーマンがツブれてしまうということはその組織、現場に根本的な欠陥があるわけですから、極端にいえば誰が入ってもキビしいわけで。奇跡的に標準以上の人材が入ってきても、役割期待が大きすぎて同じ結果になってしまうことが多いわけです。



昔の求人というのは求める(足りない)スキルが非常に明確で、そこを技術力でもって穴埋めできる人材を募集していたわけで、「コミュニケーションスキル」なんていうわけのわからない要素のほうこそ二の次でした。そのかわりに、求められるスキルは圧倒的に、高かったのです。そして、今と違って技術者に対するリスペクトが、あったような気がするのです。。(僕のムカシの思い出が美化されているだけかもしれませんが)

言い方を変えれば、技術者を求めているのに「人間性重視」というところを前面に押し出した求人というのは、技術者に対して失礼なのではないか、と、思うのですね。(そう考えてしまう私は旧いタイプの人間なのでしょうかね。。)



この業界の技術者の皆さんはもともと対面のコミュニケーションを取りたくない、というよりは、確かにそれもあるのですがとらないで仕事を進めてきたのだと思うのです。システムエンジニアのそういう「DNA」を受け継いている。

という意味ではメールでのコミュニケーションスキルは洗練されているはずなのです。たとえば外国のエンジニア相手に、あるいは国内でも遠距離の会社に外注している場合には、今よりも電話代が高かったがために(テレビ会議/Web会議ももちろんありませんでした)ほとんどすべての工程の調整をメールで済ませてきました。黎明期からそういうやり方で実績を積み重ねてきたのです。

今のようにすぐ脊髄反射で反応してやがてフレーミングになる、といったメールのやりとりというのは、ムカシはそんなになかったような気がするんですけどね。