元祖【ひとり公論】

誰かには必ず、ほんの少しだけでも役に立つに違いない、という意味での公論

中村文昭(クロフネカンパニー社長)
      『致知』2006年3月号
(師匠の田端さんとの生活の中で)
大切なのは、日々の行動なんだなということを教えられました。それを突き詰めれば4つに集約されるんですが、非常に分かりやすくて、小学生にもできる簡単なことなんです。

まず、僕らは田端さんに対してノーはなかったんです(笑)。
何を言われても、返事は0・2秒でハイ。普通は、返事をする前にいったん考えてしまうんですね。でも、そこで考えることって、要は損か得かなんです。損得で返事を迷うんですよ。そうすると、
「おまえみたいな勉強もできんあほうが、考えたらいかん。損得考えずにすぐハイだ。まずは素直に受け入れ、やってみることだ」
と叱られました。

2つ目は、「頼まれごとは、試されごと」だというんです。
ものを頼まれるのは、面倒くさいことだと考えがちです。
だけど、頼まれるということは、その人から試されているということだ。だから、頼んだ相手を驚かすくらいのことをやれ。徹夜してでも「おまえ、すごいな」と相手をビックリさせろと。
だけど、この2つを理解しても、いざ体を動かそうとするとブレーキがかかるんです。そのブレーキになるのが、できない理由なんです。

何か大きなチャンスが巡ってきても、でも俺は人前でしゃべるのは苦手だからとか、でも俺はやったことがないしとか、できない理由をあれこれ並べて逃げる。だけど田端さんは、僕たちができない理由を言おうものなら、「やってもいないうちから何がムリだ!」と叱られるんです。
「本で学ぶこともできれば、人に聞くこともできる。やってダメならやり直せばいいだろう!」って。

だから3つ目は「できない理由を言わない」。

4つ目は、「いまできることは山ほどある」と言うんです。だから、「『そのうち』という言葉を吐いて先送りするな。すぐやれ」と。
簡単でしょう。これを皆で毎日続けていたら、目の前の景色がどんどん変わっていったんです。だって、親分がああせい、こうせいと言うと、全員揃って0・2秒で返事をし、あなたの予測を上回りまっせと体を動かし、誰もできない理由を言わず、先送りせずすぐやるわけでしょう。

これを続けていたら、協力してくれる人がどんどん増えて、1年で六本木にショットバーを出すことができたんですよ。僕は小学生の前でも講演を頼まれることがあるので、この体験談をおもしろおかしく一所懸命に話すと、みんなハイハイ手を挙げて、「きょうからお母さんにお使いを頼まれたら0・2秒で返事をします」「お母さんの予測を上回る速さで行ってきて、お母さんからまず味方につけます」「両親を味方につけて、大きくなったら夢を叶えます」ってやる気満々で宣言するんです。だけど、大人ができないんですよね。
「でも」っていう悪魔のひと言をつぶやいて諦めてしまうんです。

僕は結構意地悪なところがあって、以前は講演した後、参加者の帰り道の脇に隠れて、ひそかに反応を確かめていたんです(笑)。そうすると、「おもしろい話だった」「元気をもらえた」「きてよかった」と拍手してくれていた人たちが、大概言うんです。「でも」って(笑)。

「でも、あの人は特別なんだろう」「でも、私の立場は違うし」と聞いた直後に言っている。残念ですが、そういう人は変われないんですね。