元祖【ひとり公論】

誰かには必ず、ほんの少しだけでも役に立つに違いない、という意味での公論

内田樹さん

ひとりでは生きられないのも芸のうち

ひとりでは生きられないのも芸のうち

I cannot live without you.
これは私たちが発することのできるもっとも純度の高い愛の言葉である。私はこのyouの数をどれだけ増やすことができるか、それが共同的に生きる人間の社会的成熟の指標であると思っている。
たぶん、ほとんどの人は逆に考えていると思うけれど、「その人がいなくては生きてゆけない人間」の多さこそが「成熟」の指標なのである。
(略)
「あなたがいなければ生きてゆけない」という言葉は「私」の無能や欠乏についての事実認知的言明ではない。そうではなくて、「だからこそ、あなたにはこれからもずっと元気で生きていて欲しい」という、「あなた」の健康と幸福を願う予祝の言葉なのである。自分のまわりにその健康と幸福を願わずにはいられない多くの人を有している人は、そうでない人よりも健康と幸福に恵まれる可能性が高い。それは祝福とは本質的に相互的なものだからである。