致知メルマガより
明治、大正時代、秋田県を中心に多くの貧村を建て直し、聖農といわれた石川理紀之助という人物がいました。
理紀之助のモットーは「寝ていて人を起こすことなかれ」。
つまり朝は誰よりも早く起き、昼間は誰よりも懸命に働くという率先垂範の姿勢を貫くことで、村々の再興を成し遂げていったのです。
その理紀之助には「心のじようぎ(定規)」という自らの行動指針がありました。
取材に伺った秋田で、5代目子孫の石川紀行さんが、「心のじようぎ」が収められた古い冊子を見せてくださいました。
少し長いのですが、全文をご紹介いたします。(表記は原文のまま)
※
すべての人間には、心のじよう木が必要である。
それぞれ心のじよう木をもつべきである。
これがなければ、万事について迷うことが多い。
たとへば、世の流行に対しても、
心のじよう木をもつていれば、
之をはかつて、じよう木にあえばとり、
あわねば、いかに勢いの強い流行でも、
これに従わない。
これ即ち、取捨選択のよろしきを得るゆえんである。
しからば、いかにして、
じよう木をつくるかと云うにそは(それは)、
東西古今の聖賢の教訓によるべきである。
聖賢の教訓は尊いものであるから、
よく心に入れて、更に日常これを実行して見て、
はたして実事実際に適すればこれをとり用い、
しからざれば、たとい聖賢の教えといえども、
これをとらぬようにせねばならぬ。
かくして、たえずこれをねつて行くべきである。
もつとも、じよう木が、できれば守る所が出て来て、
容易に、世の風流に従わぬようになるので、
世間からはへんくつ者と云われる。
予などは、よくその、ような世評をうけた。
けれども、予には、予の、じよう木があるから、
たとえ世評がどうあろうとも、
予は予が心のじよう木に従う外はない。
※
一読、世間の風潮に惑わされず信念を貫いて生きた理紀之助の気迫が伝わってきます。
理紀之助は古今東西の聖賢の教えに学んで自らの行動を律し、聖農と称されるまでに大成していったのです。
このような素晴らしい文章が、
あまり知られないまま今日まで来ているのは、実にもったいないことです。
「心のじようぎ」――それは混迷の時代を生きる私たちにこそ必要なものなのかもしれません。