昔話の深層
- 作者: 河合隼雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1994/02/15
- メディア: 文庫
- 購入: 18人 クリック: 51回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
自分で解決を見出せず、治療者もたよりにならぬと知り、まったく行づまってしまったこの人は、退行現象を体験しはじめる。今まで、無意識のほうから意識のほうに流れていた心的エネルギーが、逆に意識から無意識へと流れはじめるのである。
これは今まで意識に依存してきた規範にたよれなくなったので、それに対立するものが無意識内に形成され、この対立のために心的エネルギーの流れが乱されて、むしろ逆流を生じたのである。このとき、この個人はまさに「怠け」の状態になる。あるいは行動するとしてもきわめて馬鹿げたことか、幼稚なことをするにすぎないだろう。
心理療法家としては、このような退行現象に耐えていると、その頂点に達したと思われる頃、エネルギーの流れの反転が生じ、それは無意識内の心的内容を意識内へともたらし、そこに新しい創造的な生き方が開示されてくるのを見るのである。
(略)ユングは、(略)退行には病的なものと創造的なものがあることを主張した。
(引用終了)
「治療者もたよりにならぬと知り」「今まで意識に依存してきた規範にたよれなくなったので」という、ある種強烈な「諦観」の経験が、きわめて大事であると思うのです。